ピアプロ・キャラクター・ライセンス(PCL)をよく見ましょう
ちょっと遅れ気味だけど、三日前、「ITmediaニュース」にこんな記事がありました。
「初音ミク2次創作物のDL販売は原則NG クリプトンが改めて説明」
今回は、このニュースについての話です。
1 PCLって何?
PCLは、端的に言うと、初音ミク等、クリプトンが著作権を有しているキャラクターを適法に使うためのルールを定めた物です。
つまり、「初音ミク」のソフト本体についている「エンドユーザー使用許諾契約書」のキャラクター版ということができます。
初音ミクや巡音ルカのイラストやフィギュアなどの同人創作物を作りたいと思っている人は、この規約に従って利用しないとそれは違法な使用ということになります。
従って、同人制作者の方はすべからくこの規約に従う必要があることになります。
2 で、肝心の内容は?
というわけで、ではどういう形でなら適法に使用できるのかというと。
これがなかなか一言では説明しづらい部分があります(だから、前回の記事で述べた「ボカロクリティーク」内収録の論文でもこの点にはふれなかったのです)。
なぜかといえば。
このPCL、既存の著作権法よりもっと進んだ形の規定の仕方をしているからです。
それでもあえて一言で言えば。
「個人が、営利を目的としない範囲で、キャラクターを使用するのであれば適法となる」
ということでしょうか。
3 著作権法上の規定とPCL
PLCには前文があって、そこには、「キャラクターについて、原画をそのままのかたちで、またはみずから描いたイラストなどの形にして」「その権利者の許諾がないままインターネットなどで公表することは、著作権法などの法律によって禁じられています」、とかかれています。
著作権法の規定についても基本的にこのとおりです。
著作権者は、自らが創作した著作物について、ほとんど絶対的ともいえる支配権を持っています。
頒布、改変、上映、ネットへの公表、2次創作物の作成等、著作物に対するほとんどの行為は、著作権者の許諾がない限り適法に行えません。
これは、無償だろうが有償だろうが、営利目的だろうが非営利目的だろうがを基本的に問いません。
クリプトンの許諾なく初音ミクのイラスト描いて、それを方法はどうあれ公衆の面前でさらしたら、基本的には著作権法違反と思ってもらってもいいかもしれません(ものすごく単純にいって)。現実にはPCLがあるので大丈夫な場合もありますが。
しかし、それでは同人制作が全滅となります。
そこで、クリプトンは(いってみれば善意で)、「個人で非営利で使用する場合には、別に許諾をとらなくてもいいですよ」とさだめてくれているわけです。
(もっとも、これがビジネス的に本当に善意といえるかという点は別の考慮が必要ですが。一言だけ述べておけば、著作権者が著作権を主張して侵害者を訴えるのは、侵害者の行為によって自らに損害が生じたときです。しかし、非営利で利用する場合には、クリプトンに現実に生じうる損害は少ない物と考えられる一方、同人制作が盛んになれば、単純に宣伝効果が増えます。それだけとってみても、クリプトンの戦略は非常に有効であると考えられます)
4 非営利と無償の違い
ところで。非営利という言葉と、無償という言葉は意味が違います。
無償は言葉そのままで、対価を取らないという意味ですが、「非営利」は、対価を取るものも含まれます。
ちょっと難しいので「営利目的」という言葉から説明しましょう。
営利目的というのは、「利益を上げて(それを構成員で分配すること)を目的とすること」を指します。
つまり、有償で売りつつ、かつ、「利益」をあげることが必要なわけです。
非営利というのは、この目的がないこと、ですから、論理的にいって「利益を上げることを目的としないこと」を指します。
注意すべきなのは、「利益」をあげるか否かがポイントだということです。
つまり、有償でも「費用=価格」の場合には、「利益」がないので「非営利」になるということです。
クリプトンがどうしてこんなややこしい言葉を使っているのかというと、それには理由があります。
クリプトンは、「非営利目的で、原材料費を回収する目的で対価を徴収する、対面での大規模とはいえない数量の譲渡」について、簡単な申請手続きを取るだけで使用してもよいという「ピアプロリンク」というシステムを構築してます。
つまりです。
クリプトンは、無償だけにとどまらず、有償の一部についても、簡単な申請さえしてくれればほとんど自由に使ってもいいよといってくれてるわけです。
私は、この仕組みを見たとき、これはちょっと画期的なシステムだと思いました。
こういうシステムがあるから、「無償はいいけど有償はだめ」というわかりやすい規定にせずに、「非営利目的ならいいよ」という規定の仕方をしたわけです。
5 今回のクリプトンの発言について
クリプトンからすると、今回の記事の内容については当然のことだということになります。
デジタルデーターのDL販売は、誰でも簡単に、低コストで行えます。
つまり、ちょっと定価を高くするだけで簡単に「利益」が出る可能性があります。
さらに。
理論的には、DL販売は、インターネットに接続しているすべての人に対して販売可能なわけですから、これはもう大変な「利益」をうむ可能性があります。
そういうわけで「非営利目的」とはいえなくなってしまっているのです。
従って、原則として許諾しませんということになるわけです。
6 おわりに
クリプトンが現在認めてくれている初音ミク等の利用方式については、著作権法より拡大されたものです。
それがクリプトンの善意に基づくかどうかは別として、もし、クリプトンが現在のPCLを破棄したら、現在の同人制作者がの利用形態はほとんどが違法となります。
そして、PCLに従わない利用形態が多数発生した場合、クリプトンがこのPCLを撤回するという可能性はあり得ます(私個人的には、現実にはあり得ないと思いますが)。
同人制作者の方は、その点を考慮に入れて、PCLを守った形での使用継続をされた方がいいかと、私は思います。