tomoの徒然ブログ

法律系の仕事に就く筆者が、法律かいろいろなことについてそれなりに書く感じ。

著作権法シリーズ1 「著作権法の目的」 

1 本稿の目的
 本稿の目的は、著作権法は何を目的として(何を守るものとして)制定されたかを考えることにあります。
 結論からいえば、著作権法は、「文化の発展」を目的とするものであり、その手段として著作物が公正に利用されるように配慮しながら

、「著作権者等の権利の保護」を図るものであるということができます。

2 法律の目的を探る意味
 あらゆる法律は、何らかの目的を達成するために制定されています。刑法は、人の命を守るために、殺人罪という罪を定め、それを犯し

た者に刑罰を科すことによって、人の命を守っています。
 
 つまり、極論すれば、法律は何らかの目的を達成するための手段(道具)にすぎないのです。
 そして、すべての道具は、「それが何のために作られたのか」によって、利用される場面が決まってきます。
 車は、「高速に長距離を移動するため」に作られた道具です。従って、車の使用用途は、基本的に移動手段としての利用に限定されるこ

とになります。
 このことは、「道具」である法律も同じです。
 ある法律が使用される(これを「適用する」と言います)場面も、「それが何のために作られたのか」(これを法律の「趣旨」と言いま

す)によって限定されることになるのです。
 つまり、法律は、趣旨によって、どのような場合に適用されるのか、そして、どのように適用されるべきなのかが決定されることになる

といえます。

3 著作権法の目的
 著作権法は、第1条で、「この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を

定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。」

と定めています。
 
 余談ですが、最近の法律はその目的が第1条に定められていることが多いです。その為、筆者を含めた実務家も、見たことのない法律に

触れる場合は、まずは第1条から見て、その目的を探るということをよく行います。新しい法律に触れる場合は、まずは第1条を読んでみ

ることをお勧めします。

 さて、本稿の主題の著作権法の目的ですが、第1条の文章を細かく分解すると、以下のようになります。

 ①著作権法は、著作物等に関する著作者の権利とそれに隣接する権利を定めている(第1文)
 ②著作権法は、文化的所産(単純に言うと著作者が作ったもの)の公正な利用に配慮している(第2文)
 ③著作権法は、文化の発展を目的として、その為に著作権者等の権利の保護を定めている(第3文)

 だいたい、以上の3つの文章に分けることができるでしょう。
 ここから、著作権法の目的は、「文化の発展」であり、その為に「著作権者の権利の保護」を図っているというものであるということが

言えることになります。


4 著作権法の解釈についての考え方
 さて、では、著作権法が「文化の発展」を目的としてるということは具体的にはどのような意味を言うのでしょうか。

 そもそも、著作権法は、著作権者に対して一定の保護を与えることによって、著作権者が主に経済的利益を得れるようにし、創作へのイ

ンセンティヴを与えるという構造をとっています。
 要するに、創作者が自分の作った作品を通して収入を得れるような仕組みを作って、その人が創作しやすいようにするために著作権法

権利を定めているのです。
 そして、創作者が自由にいろいろな創作ができれば、「文化の発展」が果たされます。ここで言う文化の発展とは、今は、「面白い小説

が読める」ぐらいに思っていただいて結構です。
 いろいろな人がいろいろな小説を書けば、面白い小説が増えるというのはわかりやすいかと思います。

 以上が、「著作権者等の権利の保護」を定めことによって、「文化の発展」を図るということの具体的な意味になります。

 しかし、「文化の発展」を図るという目的はこのことだけを意味するわけではありません。

 第1条は、文化的所産の「公正な利用」に配慮することを求めています。
 これを「文化の発展」との関連で考えると、その意味は以下のようになります。

 当たり前のことですが、優れた著作物が作られても、その作品に多くの人が触れることができなければ、「文化の発展」は果たされませ

ん。
 どんなに面白い小説も、読まれなければ意味はありません。
 つまり、「文化の発展」を図るためには、著作者の権利を保護するだけでなく、利用者の利益についても配慮しなければならないわけで

す。
 そして、著作権者の権利と利用者の利益は基本的に対立します。

 利用者からすれば、たとえば、親の買った本を子供が自由にコピーすることができれば、子供は新たに本を買う必要はないわけですから

、非常に利益があります。
 一方で、そんなことを許してしまえば、著作権者は、売れたはずの本が一つ減るわけですから、経済的な損害をこうむります。
  
 このように両者は基本的に対立する構造を持っています。

 そこで、著作権法は、「公正な利用」に配慮すると規定しているのです。大雑把にいえば、ここで言う「公正な利用」とは、どちらか一

方に利益になりすぎないようにする、という意味であるといえます。

 別の言い方をすれば、著作者の権利と利用者の利益を、「公正な利用」を支柱とするシーソーの両端において、シーソーがバランスの取

れる状態に置かれることを著作権法は求めているといえます。

 従って、個々の条文の解釈・適用についても、この二つの対立する利益を常に念頭に置く必要があるということになります。

5 まとめ
 著作権法の目的は、「文化の発展」です。その為に、著作者の権利が保護されています。一方で、利用者の利益にも配慮しなければ「文

化の発展」が図られないため、著作権法は、「公正な利用」に配慮するという形で利用者の利益も考慮しています。
 
 具体的な著作権法の問題を考える時も、以上の視点を大事にして、著作者の権利と利用者の利益の両方の利益のバランシングに注意する

必要があることになります。