tomoの徒然ブログ

法律系の仕事に就く筆者が、法律かいろいろなことについてそれなりに書く感じ。

自炊代行に適法の余地があるのか?

1 目的

 この記事の目的は、現在問題となっている「自炊代行」について著作権法30条1項(以下「本条」といいます)との関係で適法となる余地があるかを考えることにあります。

 結論から言うと、現在問題となっている「自炊代行」は、本条との関係では違法と判断される可能性が高いということになります。

 

2 定義と提訴の経緯

 「自炊代行」とは、簡単に言うと、書籍を購入した人から依頼を受けて、その書籍について裁断機やスキャナーを用いて、PDFなどのデータにデータ化することを業務として行っている業者を言います。このような業者は、ここ数年の消費者の強いニーズを受けて、数が増えているといわれています。

 東野圭吾氏や弘兼憲史氏ら作家・漫画家7人が23年12月20日、自炊代行を行う業者に対し、その業務の差し止めを請求して、東京地裁に裁判を提訴しました。

 実はこの提訴に先立って、出版社7社と作家、漫画家122名が平成23年9月5日、自炊代行を行う業者に対して公開質問状を送付しています。これを受けた自炊代行業者の中には、業務をやめたり、質問状内に名前を示して自炊代行の拒否を示た作者の作品については今後、データ化を行わないと回答しているところもありました。

 今回の提訴は、質問状の回答において、今後も業務を行うと回答していた業者に対して行われたものです。

 

3 著作権法上の原則

 著作者は自分の著作物に対して、著作権法上、複製権を有しています(著作権法21条)。複製とは、「印刷、写真、複写、録音、録画、その他の方法により有形的に再生すること」をいいます(著作権法2条1項15号)。たとえば、コピー機を使った複製や、PCのハードディスクへダウンロードすることがここに含まれます。

 自炊代行の行っている行為は、書籍の内容をデータとして新たに作成するわけですから、この複製に該当します。

 そして、著作権者が複製権を有しているとは、原則的に著作権者の許諾がなければ、複製が違法になるということを意味します。

 従って、自炊代行の行っている業務は、著作権者の許諾がなければ原則として違法となることになります。

 ただし。

 著作権法上、著作者の権利行使についていくつかの例外としての制限が定められています。本条もそのうちのひとつであり、「私的使用のための複製」といわれるものになります。

 ここで、権利行使について制限されるということは、本条のような例外規定に該当する場合は、著作権者の許諾なしに複製をおこなっても違法とならないということを意味します。

 従って、自炊代行についても、本条に該当するのであれば、適法と判断されることになります。

 このように、現在の著作権法上は、著作権者の権利を定め(複製権や上映権など)、原則、許諾がない限りその権利に該当する行為を行うことは違法となるが、いくつかの例外規定に該当する場合だけ、許諾がなくとも適法となる、という構成をとっています。

 つまり、原則、著作権者の許諾がなければ違法になってしまうということです。

 

4 自炊代行の本条該当性

 本条は「著作権の目的となっている著作物…は、個人的にまたは家庭内その他これに準ずる限られた範囲内で使用すること…を目的とするときには、…その使用する者が複製することができる」とっ規定しています。

 このように本条が私的使用のための複製を適法としているのは、以下の理由にあるとされます。

 第1に、このような私的使用に限るのであれば、権利者に経済的損害を与える恐れが少ないという点です。

 著作権法は、著作者に著作権という権利を与えることによって、経済的インセンティヴを与え、著作者の制作活動を保護することを目的としています。要するに、何かを作ればお金が入るシステムにして、著作者が生きていけるようにしていこうというものです。

 私的使用は、基本的には、個人が買ったCDの音楽をi-Podに移すなど、ごく限られた範囲の複製を念頭に置いているので、このようなものであれば経済的損害も少ないと考えられたのです。

 第2点は、このような行為まで違法であるとすると、個人のプライバシーを侵害する恐れがあるという点です。

 前述したように、個人が音楽を移し替える行為まで違法であるとすると、著作者は、このような個人の行為を把握しようとします(違法ならば、裁判でお金をもらうことができるため)。つまり、著作者が個人のプライベートな行為まで(いつi-Podに移したかとか)踏み込んでくることになるわけです。

 では、自炊代行の業務は本条に該当するでしょうか?

 問題となるのは、「その使用する者が複製する」という規定です。

 私的使用のための複製は、使用する個人自らが複製することを要求しています(制定過程での議論でもこの点は強調されています)。

 自炊代行業者は使用する本人ではないため、この規定に該当しないことになります。

 さらに言えば。

 自炊代行業者によって、書籍のデータ化されると、インターネットを使った配布が容易になります(実際に配布されるかどうかは別として、その危険性は高くなります)。

 そうなると、著作権者に与える経済的損害は甚大なものになりえます。つまり、自炊代行の行っている行為は、本条が規定された趣旨に反する行為と評価し得るということになります。

 また、自炊代行の行為が違法とされても、今回のように提訴されるのは業者なので、個人のプライバシーを侵害するという可能性は少ないです。

 つまり、本条の趣旨からしても、自炊代行の行為を適法とすることは難しいということになります。

 

5 結論

 自炊代行の行為は、現在の著作権法を前提とすると違法である可能性が高いということになります(通説もこのように考えているようです)。

 ところで、著作権法上違法であるとうことと、自炊代行のような行為をビジネスとして許容すべきかというのは全く別の問題です。

 自炊代行業者がはやったのは、消費者のニーズがあるからです。書籍好きの人からすれば、書籍を書籍のまま保存するというのは、場所も取るし、気軽にどこでも読める書籍の電子化というのは本当に魅力のあるものです。

 このような消費者のニーズに反して、いつまでも紙の媒体にこだわるのは、ビジネスモデルとしてあまり得策でないと言えるでしょう。 

 また、そもそも、著作権法は、「文化の発展」を目的として規定された法律です。多様な著作者の著作物を通じて、文化の発展を果たそうとするものです。そうであれば、より多くの人間がより簡単に書籍を読むことができるようにすることは、著作権法上の究極的な目的にかなうことにもなります。著作権法は、既得権益を守ることが目的ではありません。

 そのような観点から考えた場合、今回の提訴がはたして社会的に許容されるものかどうかはまた別の問題ということになります。

 今回の提訴についても、裁判所がこのような社会の変化に応じて、自炊代行の行為を適法とする可能性も(かなり少ないですが)ないとは言えません。