ネットプリントとピアプロリンク
1 目的
本稿は、初音ミクなどのクリプトンキャラクターを描いたペーパーについて、ネットプリントを通して頒布すること(以下「ネットプリント頒布」といいます)がピアプロリンクによって認められるかを検討するものです。
結論から言えば、少なくとも現状のピアプロリンクではネットプリント頒布が認められることは難しいのでないか、というのが私の結論です。
2 きっかけ
きっかけは、私もお世話になっているボカクリ編集者、中村屋与太郎さん(@NakamuraYa_Y)のツイート。中村屋さんの問題意識としては、「ネットプリントならそれこそ『原材料費程度の支出を補うために必要最小限の対価』な訳」なので、「『小規模』かどうかはかなり怪しい」がピアプロリンクによってクリプトンから許諾をもらうことによって、ネットプリント頒布が出来ないかというものです。
ネットプリントを利用したペーパーの頒布については、
http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1110/24/news061.html
ここの記事が参考となります。
その仕組みをざっくりと説明すれば、①制作者がデータをアップロードする、②アップロードの際に発行される8桁の番号をペーパーの受け取り希望者に教える(この際、有償である場合もあり得る)、③希望者がコンビニのプリンターで教えられた8桁の番号を利用してデータをダウンロードし、利用料を支払ってプリントアウトする。
という3つの段階を通してペーパーを頒布するシステムであると言えます。
3 検討
(1) 「小規模に頒布」要件の該当性
さて、ここで問題となるのは、ネットプリント頒布がピアプロリンクにいう「非営利有償頒布」に当たるかどうかにあります。
ピアプロリンクは、「被営利有償頒布」の定義を第2条1項(2)で規定し、当該「非営利有償頒布」に当たる行為について申請と基本的に審査なしの利用承認を認めています。
そのため、ネットプリント頒布が「非営利有償頒布」に当たらなければ、ピアプロリンクを利用して許諾を得ることが出来なくなるわけです。
「非営利有償頒布」の定義との関係で、問題となるのは、次の2点です。
まず第1点は、中村屋さんもおっしゃっているとおり、「小規模」の頒布に当たるかどうかという点です。
この点については、私が前回のブログでも触れた、クリプトンの
http://blog.piapro.jp/2012/02/post-503.html
の記事が参考になります。
該当箇所を引用すると
「個人のクリエイターの方による、デジタルデータのダウンロード販売につきましては、理論的には大規模の頒布を極めて低廉なコストで行えることから」「原則としてご許諾をいたしておりません」
という点です。
この記事から、クリプトンは、デジタルデータのダウンロード(販売)については、「小規模」に該当しないとの解釈をとっていることがわかります。
ここでいうデジタルダウンロード販売とネットプリント頒布は、厳密には異なるシステムといえますが、デジタルデータのダウンロードによって制作物が頒布されるという点は共通であり、ネットプリント頒布についても「大規模の頒布を極めて低廉なコスト」で行えるものと考えられますから、デジタルダウンロード販売と同様に該当しないという判断になることが予想されます(ネットプリント頒布はデータの保存期間が7日と限定されてはいますが、その期間であれば理論上何度もプリントアウトが可能なので、この点は結論を覆さないものと考えられます)。
なお、これはあくまでクリプトン側の主張なので、裁判になったらどうなるかを少し考えてみましょう。
ピアプロリンクは、定着した「同人文化」を応援する目的、およびファンの交流を促進する目的で、個人のクリエイターの方による、クリプトンキャラクターを用いた物品の、非営利目的で、原材料費を回収する目的で対価を徴収する、大規模とはいえない数量の譲渡を認めるために作成されたものであると宣言されてます。
この宣言は、利用規約そのものにかかれたものではありませんが、ピアプロリンクに関するクリプトンのHPにかかれており、公式ブログでも触れられてもおり、契約の趣旨として一定程度裁判上も考慮されものと言えるでしょう。
この目的から考えて、ピアプロリンクは、ざっくりと言って「利益を上げない有償頒布」について「同人制作者に過度な経済的負担をかけないために」、キャラクターの使用について無条件の許諾を与えることを趣旨としていると考えられます。
そして、この趣旨からすると、「小規模に頒布」という要件該当性の判断に当たっては、「非営利性を担保する形態の頒布でなければなならい」と考えられます。
というのは、ピアプロリンクは「利益を上げない有償頒布」を対象としていることから、利益が上げられるような形態の頒布(多くの場合は大規模なものとなることが予想されます)を除外するために、「小規模に頒布」という要件がつくられていると考えられるからです。
従って、クリプトンの主張は、仮に裁判になったとしても、充分通用するものであると考えられます。
(2) 対価の問題
さて、「非営利有償頒布」の定義との関係で問題となるもう一つの点は、対価に関する問題です。
検討の前に、ネットプリント頒布における利用者の金銭的負担に関して少し考えてみます。
まず、不可避的に生じる金銭的負担として、ⅰコンビニで支払うプリント料金が上げられます。そして、場合によって生じる金銭的負担として、ⅱ8桁の番号を教えてもらうときに制作者に支払う金銭が考えられます。
ⅱについては、制作者が直接受け取るお金、ⅰについては、制作者に支払われないお金であるといえます。
それぞれが「必要最小限度の対価」に当たるかが問題となるわけです。
まず、ⅱについては、「必要最小限度の対価」というのは難しいと言えます。
「必要最小限度の対価」が想定しているのは、原材料費程度という例示からもうかがえるとおり、二次著作物を制作するために直接かかった費用を想定していると言えます。
しかし、ネットプリント頒布の場合、印刷費用は、利用者負担であり、データーをアップロードすることは無料であり、原材料費がかかっていないと考えることが出来ます(厳密には、データを制作するためには、PCの購入費や電気代等の必要経費がかかっているところですが、ピアプロリンクはそこまでのものを想定してるとは考えにくいです)。
そうすると、ⅱは、ピアプロリンクの規定上、二次著作物を制作するために直接かかった費用とはいえず、むしろ、利益に当たるものと考えることが出来ます。
従って、ⅱについて、「必要最小限度の対価」に該当するということは難しいものと考えられます。
一方、ⅰについては、まさに二次著作物を(ペーパー媒体として)制作するために直接かかった費用といえるので、「必要最小限度の対価」に該当するとも考えられます。
しかし、ピアプロリンクは、規定上、必要最小限度の対価について、制作者が直接受け取ることを要求しているようによめます。
そうだとすると、ネットプリント頒布の場合、印刷料金を受け取るのはコンビニであるため、規定をそのまま適用すると、「被営利有償頒布」に該当しないことになってしまいそうです。
この点についてはどのように考えるべきでしょうか。
一つの考え方として、以下のように考えることが出来るでしょう。
まず、ピパプロリンクは、「同人制作者に過度な経済的負担をかけない」で同人制作が行えることも趣旨としていると考えられます。そうだとすると、大事なことは、同人制作者が制作費用によっていわゆる赤字を負担しないことであり、対価を受け取るのは制作者本人でなくても良いともいえるでしょう。
このように考えれば、ⅰについても「必要最小限度の対価」にあたるということが可能だといえます。
4 まとめ
以上まとめると、ネットプリント頒布については、ピアプロリンクにいう「非営利有償頒布」の要件である、「小規模に頒布」という点と「必要最小限度の対価」という2点の要件が問題となり、前者については、「小規模に頒布」に該当するとは言えず、後者については、一部については「必要最小限度の対価」に該当すると言えることになります。
ピアプロリンクの許可を得るためには、両方の要件を満たす必要があるわけですから、結局、ネットプリント頒布についてピアプロリンクの許可を得ることは難しいという結論になります。
ところで。
中村屋さんによれば、ネットプリント頒布についてクリプトンに確認を取る予定であるとのことです。
ということは、私の考えが正しいかどうか、その回答によってわかることになっています(笑)。
クリプトンのことですから、ピアプロリンクとは別に、許諾する可能性も無いではありません。
結論を私自身も楽しみにしているところです。